イケチョウガイは,イシガイ科というグループに含まれる二枚貝です。もともとは滋賀県の琵琶湖にしか生息していなかった種ですが,真珠養殖に使われる貝として,茨城県の霞ケ浦湖そして青森県の姉沼の順に持ち込まれた個体がそれぞれの湖で繁殖するようになりました。しかし,現在では琵琶湖と霞ヶ浦湖には,中国産のヒレイケチョウガイとの交雑種が生息することになり,純粋にイケチョウガイが生息している湖は姉沼だけになってしまいました。ただし,姉沼では数年前からアオコと呼ばれる藍藻の異常増殖が夏場に起こり,イケチョウガイの繁殖や稚貝の成長がうまくいかないのではないかと懸念されています。

生態情報解析学研究室では,長年にわたり,イシガイ科二枚貝の保全や生態を明らかにする研究を継続してきました。イシガイ科二枚貝は,水の中で水質浄化や他の生物の生息に貢献している,とても重要な種に位置づけられます。実はイシガイ科二枚貝は,その貝種ごとに特定の魚種に寄生するという特異な生活環をもっています。すなわち,雌個体が幼生を吐出し,魚類個体の鰭(ひれ)や鰓(えら)に噛みつくように付着します。すると魚類の皮膚は,1,2時間で幼生が付着した周辺で動いて,幼生自体を覆ってしまうのです。これを,シスト形成を呼びます。

シスト形成されると中にいる幼生は,体液を吸収して成長すると思われ,貝の形に変態します。稚貝になると自ら動いて魚類個体の皮膚の中から水底に脱落します。脱落した稚貝は,成貝と異なる行動をとります。すなわち,貝殻を頻繁に開閉しながら水底を徘徊し,底質(水底の砂地など)に浅く潜ります。成貝と違い,稚貝の足には繊毛がびっしり付いていて,有機物などを繊毛に引っ掛けながら,まるでベルトコンベアーのように口まで運搬していきます。成貝になると水に浮遊している植物プランクトンを吸い込んで食べるようになります。このように独特な生態を有している貝にはまだ分かっていないことが多々あります。とくに飼育することが困難であり,餌や飼育環境でも私たちが気づいていないことがあると思われます。
さて,件のイケチョウガイですが現在,比較的新しく,閉鎖的なため池を活用して増殖できないか試しています。具体的には,30個体をそれぞれため池で垂下し,幼生をいつ吐くのか,どのくらいの量吐くのか,幼生を寄生させた魚類個体から稚貝が脱落するのか,脱落した稚貝は成長して幼貝になれるのか,などを毎日通って調べています。この課題は,滋賀県の水産試験場との共同研究でもあり,頻繁に情報交換しながら進展させているところです。

柿野 亘

